着せ替え人形を話題にしたSNSなどを巡っていて、「デフォルト服」という言葉を見かけることがあります。発売時のお人形が着ている服の総称です。
初めに見たとき「へぇ~、ひとことで説明が付く、便利な言葉だ」と思いました。
デフォ服、と省略している場合もあります。
ところで私は、「デフォルト」と聞くと、債務不履行を先に思い出します。特に、どこかの国がそのような状態に近いか、陥ったという話を連想します。
20代の頃、金融商品に興味を持ち、それから取引も実際に行ってきたので、投資のための情報に触れているうちに、自然とこの言葉を覚えました。
お人形用語の方は、初期状態を指し、場面によって、良いもの、あるいは、つまらないものという意味をも引き受ける言葉ですが、もう一方の金融用語は、約束を守れそうにないとか、破綻したなどという、よろしくない状態を示す言葉です。
なんでそんな違いが?同音異義語?いや、そうじゃないよねぇ、どうかな…という疑問を、ずっとそのままにしていたのですが、あるとき、コンピュータ用語にもデフォルトという言葉があると知りました。こちらは、未入力による誤作動を防ぐためにあらかじめ準備された値を指すものだそうです。そう聞くと、配慮が感じられて、勝手に良い印象を抱きます。
この「デフォルト」という言葉は、単純に用途や印象の好悪だけでまとめられるものではないな、ますますよくわからん、となったので、少し調べてみました。
デフォルトはどれも同じdefaultから来ているのだと分かりました。
英語で、債務不履行のほかに、義務の不履行や、怠慢、滞納、棄権などという意味もあるようです。
金融用語のデフォルトは、英語で債務不履行を指す言葉が、そのまま日本語読みで使われています。
コンピュータ用語は、先に書いたとおりです。初期値という意味で使われています。
なお、デフォルトに対して、ユーザーが設定を変更することを「カスタマイズ」と言うようです。
日常用語として、特に若い人の間で、基本的な状態を指すときに「デフォルト」「デフォ」が使われているということも、分かりました。
お人形の服に関しては、ちょっと調べただけでは、由来はつかめませんでした。
私の勝手な想像ですが、コンピュータ用語か日常用語から来ているのかなと思います。
こうして見ると、全然違うと思っていた意味も、少しずつ繋がっているようです。
子供の頃に、言葉とは、立場や状況や時代で意味が変わるものなんだなと、ひとり納得したことがありました。
それは「大儀」という単語がきっかけでした。
物心ついてからしばらくの間、まわりにいた大人たちが、何かをするために重い腰を上げるときに、「たいぎだなぁ」とよく言っていました。その様子から、「たいぎ」とは、面倒くさいけれど、やらなければいけないことを指すのだと理解していました。
あるとき、TVの時代劇で、一番奥に座る偉そうな人が、家来の報告にひとこと「たいぎ。」と応じる様子に、見ていた私は「ほめている?ねぎらっている?なんだか、認めてあげる時に使う言葉みたい…」と感じました。
次の瞬間、「え、この『たいぎ』は、あの『たいぎ』か!」と、はっとしました。
その偉そうな人、今思えばおそらく城主ですが、私の眼には「お疲れ様~。きっと嫌々ながらにやったんだよね~、面倒くさかったでしょう~?ごめんねー、ありがとうね」という気持ちで言っているようには見えませんでした。
どちらかといえば「(わしのために)よくやった、ほめてやる。(やって当然だけどな)」と思っているような雰囲気でした。
家臣のひとも「はい、面倒くさくて、本当はやりたくありませんでしたが、仕方なく。」などとは、死んでも言えない立場のように見えました。
ただただ、かしこまっていました。
私が日常で耳にする「たいぎ」とは、ずいぶん違っていました。
それだけ違ってはいても、おなじ言葉だと気づいたことが子供心に嬉しく、印象に残りました。
その後、登場人物や時代が異なる時代劇でも何度か「大儀。」のシーンをみましたが、上の立場のひとの、渋々の「大儀。」もあれば、喜色満面な「大儀。」もあり、その時どきで込められた意味が違っていました。言葉をかけられた側の反応も、得意そうだったり、辛そうだったり、様々でした。
その都度、その単語の意味が持つ幅広さを再認識しました。
やがて、学校の授業で古典を習ったりして、言葉とは、文字も音も変わらなくても、時代がくだるにつれ、使われ方や意味は変わるものだとも知りました。
「デフォルト」を調べていて、そんなことを思い出しました。
一つの単語が、意味の幅を広く持つ。
繋がっているけれど少しづつ変化して、あちらの端と、こちらの端とでは全然違う。
まるで、グラデーションに染められた、風に揺れる一枚の大きくて長い布を、視点をあちこちに移しながら、眺めているみたいだと思いました。